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日本語の用字用語について ―― 医学論文の翻訳で思うこと

医療、科学と法
By Umjanedoan (CC)

 先ごろ、医学界では著名な医師の和訳文章を校正する機会があった。内容は研修医や新人の医師を対象とした診療マニュアルである。アメリカで刊行された本の日本語版を発売するにあたり、医師が和訳したものを、医薬翻訳者がクロスチェックしたうえで、日本語の間違いを直して訳文を完成させるという作業の流れであった。

 作業開始から数時間後、医師の訳文を前に頭を抱えこんでしまった。原本である英文の内容を訳していることはわかる。でもその訳文である日本語のなんとお粗末であることか。何度も読み直しても、文が頭の中にスムーズに流れてこないのだ。つまり、中学や高校の英文解釈の授業であれば一応許してもらえる訳文だが、商品となるにはまだまだ許せる段階ではない和訳文であった。とは言うものの、プロの医師が書いた文だから修正するのになかなか勇気が要る。なぜなら、訳した医師はおそらくその翻訳文に修正の必要性などないと思っているからだ。修正前の文と修正後の文の差に敏感な人であれば、読み手が読解に引っかかる文など初めから書きはしない。修正したら 「 失礼な! 」と怒り出すかもしれない。ところがチェックを依頼した会社は 「 遠慮なく修正してください 」 と言うものだから、こちらは文章を書くプロとして、妥協できない点には容赦なく手を加えた。優先されるべきは、原文の英語に書かれた情報を、読み手に分かりやすい流れで、一読して理解できるものに仕上げることだ。もちろん正確さは言うまでもない。
 時間のかかる作業であった。とりわけ修正しにくかったのは用字に関することであった。これぞ日本語ならではの問題である。英語への翻訳であれば大文字やイタリックなどの使い方で迷うことはあるものの、ライティングのルールがある程度定まっているので、それほど悩まない。それに比べると、日本語の表記には平仮名、片仮名、漢字、ローマ字、算用数字と基本的な文字遣いだけでも5種類がある。今回の作業で困った具体的なものは、医師が訳文に当てる漢字表記、たとえば、「 ~するように 」を「 ~する様に 」、「 ~した例はなかった 」を「 ~した例は無かった 」、という具合に、漢字にする必要のないところに漢字を使っている箇所が無数にあったこと。もちろんこれは表記の誤りとは言い切れない。テレビの影響もあるだろう。ここ数年のテレビ番組は、出演者の言葉をご丁寧にテロップで流している。わざわざ文字で表示することで「ここは笑うところですよ」と視聴者に訴えているようだが、一瞬で読み取らせるために、文字数を極力減らして表示するとともに、瞬時に理解できるように、表意文字で表記する傾向がある。すると結果的に漢字が多用されることになる。上記の「 様に 」という表記は、言葉の使い方に気を配る人はあまり使わないが、テレビ番組のテロップでは当然のように使われている。映像字幕翻訳を含め、実務翻訳ではこの表記を避けるものだが、言葉を糊口の糧としない人にはどうでもよいことなのかもしれない。修正に対して医師から苦情を言われるとすれば、まずこの用字の問題だろう。「 “~ように”でも“~様に”でもどっちだっていいじゃないか! 」と言われそうだ。

 
原子
By Ian Roberts (CC)
 だが、翻訳者にはこれは重要な問題なのである。どこに読点を入れるか、そこを漢字にするか平仮名にするか、その一つひとつにこだわりがある。どっちだっていいなどとは言えない。翻訳会社によっては表記のルールをこと細かく決めているところもある。そこにどの文字を使うかという問題は、実に大切なことなのである。同じ言葉であっても用字の選び方次第で、読み手に与える印象は大きく変わる。表す言葉が同じでも、表意文字をもつ日本語の場合は、どの字を用いるかという問題は特に大切なことなのである。
 プロの翻訳者はただ訳すことだけが仕事ではない。そこにどの文字を置くか、それによってどのような効果が生まれるか、そこまで考えながら訳しているのである。用字を含め、細部にまでこだわり、言葉を選び抜いてこそ、商品価値のある文章が生まれるのである。改めてそのことを思い、私は迷うことなく赤ペンを手にして医師の文章をもう一度読み直した。




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What is an academic paper?

Japanese society and American society are flexible and rigid in different places. Americans are much less flexible in demands of academic work than Japanese. Certain specific demands need to be met for an academic paper in Japan. If Japanese academics, unaware of these demands, write a paper in English, native English speakers may think very poorly of the paper. The What is an academic web page at Dartmouth very nicely lays out our cultural expectations for what an academic paper is and how it is structured. While Japanese can use very different structures, papers written in English should use English structures.


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